風景画の中に人物を溶け込ませて、心象風景を作り出す技法について多くの画家が四苦八苦してきましたが、これは何もプロでなくても自由に挑むべきジャンルと言えます。しかし風景をベースに描く以上、人は背を向けておくのがベストと言えます。ただ人も風景も丁寧に描きましょう。例えば山があって手前に人が立っていれば、山を見上げる人という空間が生まれます。そして、人の隣に花を描くと、情緒が生まれますし風に吹かれて花びらが舞っていると、さらに緊迫感が出てきます。このように心理状態を植物で表現する事ができるので、様々な情景の中に人を置いて試してみましょう。

それではなぜ風景の中の人は背を向けるのがいいのでしょうか。それは表情を隠すことによって風景を際立たせて心理状態を明確にするためです。人の表情と言うのは喜怒哀楽がはっきりしているので、そのまま描くとすぐに何を考えているか分かってしまいますし部分的なものになりがちです。ですから、あえて表情を見せない状態にしておいて、風景の一部にアクションを起こすと、一つ一つの要素が総合的にリンクして画面全体が沸き立ちます。

もしくは人が山を見上げている絵を描いた時に、山から煙が出ているとそれは噴火を思わせる情景に変わるため、そこにいる人の安全が脅かされるのではないかという危機感が生まれますし、逆に美しい色合いの山を描けば、心が穏やかになって、そこにいる人が羨ましくなります。要するに絵の中に心が入っていくと言う1つの演出になるので、リアルな画面を作ればそれだけ臨場感が増して、映像を超える印象が解き放たれます。

演出という意味では、舞台などのストーリー作りと何ら変わる事はなく、美術オンリーで空間の調和を図っていき、風景が物を言う状態にすれば、より精神的な構造を浮き彫りにする事ができるので効果的です。ですから人が2~3人いるとさらに、人間関係の中で感情がうごめく様を演出できるので試してみましょう。これらの効果は風景が物語るお話であると考えれば分かりやすくなります。1人が画面の端から2人の男女を見つめていて、黒い雲が流れていると、妬みというような恐ろしい雰囲気になるのですが、2人の男女が1人を見つめていて、空が晴れ渡っていれば、微笑ましい気持ちになります。

演出はちょっとした発想の転換で、形になっていくので、心象風景を描きたいと思ったら起承転結の「起」と「結」を意識して、日の出を人が見ているだけの絵を考えた時に、太陽が「起」となり人の心が希望と言う「結」へと導かれるため、一見抽象的な演出に見えても具体的に心に呼びかけるような形にすれば、分かりやすくなります。これらの理論を独自の思考に組み入れるためにも、絵本などの単純なストーリーを成す物語は非常に分かりやすく心に訴えかけてくるので、「起」と「結」を織り成す考えを単純化することができます。それではなぜ絵には起承転結の「起」と「結」だけを取り入れるといいのか考えて見たいと思います。

もし本当のストーリーを絵で表現すると、一枚の絵では「承」と「転」を表現しきれないので、4コマまんがにしないと完全なストーリーは完成しません。ですから事の顛末を一度に表現する場合には「起」と「結」だけで事足りてしまうのです。ただ余韻を残したり、絵の表現形態を「?」で終結させたい時には「起承」だけでも大丈夫です。「転結」の部分は想像力が補ってくれますので、絵というのは人に表情を与えなくても、周りの風景をいじれば全体を物語る一種の表情を演出できるので、隅々までしっかりと描写していく必要がありますし、写実的であれば尚良くなります。