何を描いたら言いのか分からない人にお勧めなのが自分の手を描いてみることです。普段意識することのないものを観察すると新鮮な気持ちになりますし、手と言うのは非常にバランスのとれた美しい形をしているので、手の平と裏側も丹念に描写して、できれば指紋も描いてみましょう。手は必ず輪郭から描き始めて、刻まれている多くの皺を丁寧に配置していくと、リアルな造型が浮かび上がりますが、手をずっと見ていると皮膚の下に通っている血管の筋を観察する事ができますし、指紋は円形であるのに対して指の付け根に向かっていくと、細かい皺の溝が升目状になっていることが分かります。

手を描きながら指の長さと太さを微妙に調節していって、バランス感覚を養いましょう。人間を描く上で手と言うのは人間らしさを強調する上で非常に重要な部位なので、指先まで丁寧に描くのは骨が折れる作業かもしれませんが、そこを頑張ればリアルな情景を具体性のある形にしていけるので、手は顔と同じぐらい慎重に取り扱う必要があります。顔は表情をつくりますが、手は心理的な部分を表現できるので、手を開いている時と握っている時では、その人物の心の安定度が変わってくることを踏まえて、人物の置かれている状況をよく考えながら手を力強い線で描けば、分かりやすく表現する事ができます。

例えば人差し指を突き出している人間の心理状態は、強い意思の現れであると言えますので、社会風刺的な絵画に多く見られますし、そこには自ずとストーリー性が生まれます。人差し指だけでなく、指を立てるという行為は人間の意志の反映と言えるので親指は肯定的な気持ちの象徴ですし、小指は愛らしさを表していますので、人間と人間の意志の葛藤を描くとき、手先の描写は非常に大きな効果をもたらします。

要するに人間を表現する時に、他に対象物がなければ直立不動になることはあまりありません。何かしらのアクションが必要になるので、手をどの位置に配置すると意図的に感情をコントロールできるのか、まずは自分で腕を曲げたり伸ばしたりしながら手の位置を変えて試してみましょう。拳を握って腕を上に伸ばすと印象としては強くなりますし、手を開いて腕を垂らすと力を抜いている状態ができます。もしくは手を広げて腕を90度ぐらに曲げると原理的な事柄を解析するような素振りになるため、人に何かを説明するような状況で使う事ができます。

もし両手で顔や頭を覆うようなしぐさをすると、感嘆の表現に繋がりますので怒りや驚きを表現することができます。喜びであれば両手を広げて腕を横に伸ばすことで、顔の表情を描かなくても人物の内面を伝達するのに役立ちます。このように手の位置や状態を調節していけば、あらゆる心理状態に対応できるので、単調な絵にドラマチックな状況を与えることができますし、表現形態としては多少オーバー過ぎるアクションではありますが、詩的な美術を華やかに彩りたい時には必要不可欠な動作なので身につけておく必要があります。

それでは2人以上の人物が1つの画面に登場する時に、お互いの手の平をくっつけている状態を想像してみてください。手と言うのは人と人の繋がりや、信頼の共有の象徴になるので、それらの人物がお互いを尊重して、それを受け入れている図が完成します。逆に人物が互いに人差し指を突き出していると、何かを議論したり言い争いの風景になるので、これらを応用すると緊迫感や安心感を画面一杯に引き出すことができます。また手で頭を掻いたり、髪の毛を掴むと困った時のしぐさができます。