子供が最初に手にするおもちゃは、玩具だけでなくテレビと言う媒体を通して察知する、動的な娯楽も含まれてきますので、その中でうごめくアニメーションや子供向け番組が織り成す独特の世界は、大きな刺激となって1つのカルチャーが誕生します。また最近ではポップミュージックにおけるプロモーションビデオは、映像と音を1つの括りで人間の感覚に訴えるための要素が詰まっており、テレビの多チャンネル化に伴って、子供が目にする映像はよりバラエティー豊かになり、いち早く芸術の道が開けるという可能性は大きくなります。

例えばアメリカのニューヨークのビル街に旅客機が突っ込むという恐ろしい事件にしても、あの映像を目にした子供の視覚的思考と感情的なバランスは、良い方向に行くか悪い方向に行くか判断はつきかねますが、刺激と言う意味では絵を描くための表現力形成における要素の1つになることも有り得ます。またテレビの構造は脚本と美術製作が非常に重要な仕事になってくるので、どのチャンネルをひねってもバランス感覚、色彩感覚、角度や照明の明暗、カット割りに至るまで、映像と言えども絵が描ける専門家が基礎を作るわけですから、全てをひっくるめて1枚の絵にすると、それが赤で塗りつぶしたようなイメージになる事もあれば、デクスチャの様に粒子の集合体になったりと、1つの抽象表現が生まれます。

要するにテレビを考えると、絵を描く能力がいかに重要で現場に生かされているかがよく分かりますが、ただ番組を見るだけでなく、なぜカメラはズームアップとズームアウトを使い分けて撮影するのか、なぜ照明が必要なのか、現場の在り方を意識して観察することをお勧めします。ドラマや映画の物語はワンカットごとに時間が異なる理由や真上から人を撮影する場面があったとすると「なぜそうするの?」という疑問を持ちながらスタッフの一員になったつもりで、じっくり考えていくと必ずテレビや映画の画面から答えを見出すことができるので、それが5年かかるのか10年かかるのか人によって差はありますが、自己の訓練のためにも挑戦する事は重要です。

これは思考的創造の育成に繋がっていくので、絵画教育として非常に重要な課程といえます。ただ子供だけでなくおとなにも同じようにプラスに働いていくので、何歳で始めても大丈夫です。例えば料理番組を見ると手元で作業する映像をアップで映したり、引きで映したりする過程における、カメラワークのバランス要素や出演する人の服の色が料理と呼応していれば、それは色彩感覚における演出者の勝利となるので、話の道筋を追うのはストップして1枚の絵を見る感覚を要所要所で意識すると、今まで気がつかなかった臨場感を出すための効果や料理を美味しそうに見せるための雰囲気をビジュアル面だけで捉えるという発達した意識の元に、絵と映像という一見違った媒体に見える双方の関係性を独自の視点で見出せるようになります。

テレビや映画を見終わった後に4~5枚の絵にまとめるというような訓練をするとキーになるビジュアルを頭の中で再現させると言う高度な技量の発達に取り組む事ができます。その場合絵の良し悪しは関係ありません。抽象画のように物が変形してもいいので、事象の凝縮をしてみましょう。またそれらの訓練を通して見えてくるポップカルチャーの本質を見抜く事ができれば、表現に関するテリトリーは本格的なものになってくるので、そこから抽象画や心象風景などの独特の世界を見出すことも可能になってくるので、映像がもたらす世界はメタファーに覆われた自己の埋もれた世界観の発掘に貢献するということに気づきます。