絵の世界におけるある種のドキュメンタリーというのは、写真以上の臨場感を持つ時に重みが増していきますが、人の形の輪郭線を描いて黒い絵の具で塗りつぶし、それ以外の背景を赤で塗りつぶすと夕焼けの景色に人がたたずむ画面を作り出すことができるので、誰でも挑戦できます。これは単に光と影のみの競演に過ぎませんが、黒と赤を用いる夕焼けのイメージは、人でなくても象やキリンの黒の塗りつぶしを前面に置いて背景を赤にすれば、野生動物の群像を再現できますし、桜や松、梅などの樹木であっても日本の風情ある雰囲気がリアルに描写されます。

赤と黒のコントラストと言うのは、非常にシンプルですが実に多様性のある活用術を見出すことができるので、上記の人と夕焼けの画面の手前に緑色の絵の具で草を描いてみると、さらに遠近感を演出できるという応用に発展していきますので、1つの手法としていつでも使う事ができます。この時、にじみ易い水彩絵の具よりもアクリル絵の具を用いることをお勧めします。

アクリル絵の具はベタ塗りをするのに、適している画材で、はっきりとした色合いを出せることから、赤のベタ塗りの背景に黄色い円を描けば、沈み行く太陽を演出できるので、人と夕焼けのコントラストにそれを描き加える事も可能です。また赤い塗りつぶしの画面に黄色い円で太陽を表現したら、その下にオレンジの線を引いて線から下を再度オレンジで塗りつぶしてみましょう。すると夕方の海を再現できます。さらに手前に人の影と草を加えれば、より印象を際立たせる事ができます。

これらの技法を様々な対象物を用いて発展させていくうちに、色の効果について実践するべき事は何であるのか見極める事ができるようになってきます。まず孤色という相性の良い2色の色をコントラストとして用いることによって、絵の印象や美しさがより際立つので、黒と赤でもいいのですが、黒の相対色は白なので、黒い画面に白い小さな点をいくつか描くことによって色の相互の強弱が最大になり、宇宙を描く時には効果的ですし、黒と白というのは全ての色の中で最も強烈な相対性を発揮することから独特の画面を作る事ができます。緑色の葉に赤い花を添えることも同じように弧色の効果で、美しい造型が完成します。要するに色相環というものを考えた時に、赤⇒オレンジ⇒黄色⇒黄緑⇒緑⇒水色⇒青⇒紫⇒ピンクという順に色を配置していくと1つの円になって、ピンクは赤に移行していきます。

この円の真逆、いわゆる円の中心に対して対照地点にある色をそれぞれ弧色というわけですが、ゴッホはこれらの性質を存分に自分の絵に活用したので、鮮やかで美しい画面を作ることに成功しました。ですから弧色を意識しながら着色作業をすれば、印象も強まり色彩の強弱をよりたかめながらドラマチックな造形美が誕生するので、実践してみましょう。

アクリル絵の具は油絵の具に匹敵する力強い画面を作るのに適したツールですが、水に溶いて使う事ができるので便利です。ただ油絵の具に比べると、すぐに絵の具が乾いてしまうため、短時間で仕上げないと、色の塗り重ねができなくなったりオイルを使わないので、つやを出せないと言う難点はあります。

しかし色のコントラストは色鉛筆やクレヨンでも再現できるので、その場合は細かく丁寧な着色を施していくことが重要です。まずは何でもいいので輪郭線を綺麗に描く練習から始めましょう。輪郭線を細かく描ければ、よりリアルになりドラマチックな演出を際立たせる事ができるので、コントラストの効果が増します。ですから1枚描いて終わりというのではなくたくさん描いて技量を身につけていきましょう。