絵の基礎は脳内のイマジネーションからそれが指先に伝わり、紙面上に再現できるか、もしくは目の前にあるものをある程度忠実に表現できるかということから始まりますが、そこで終わるのではなく思考意識をさらに発展させて忍耐を身に付けつつ細密表現にチャレンジしてみましょう。ようするに抽象画であれば脳内訓練だけで自己の世界を広げていく事ができますが、具体的な風景画や肖像画を考える時にたとえ大胆な荒削りのタッチでも部分的には、忍耐強く細密描写を施す必要がありますので、桜を描くのであれば花一輪を粒の様なイメージで捉えてじっくりと取り組んでいかなければなりません。

それではベタ塗りで構成されている単調な絵は関係ないのかという問題がありますが、ベタ塗りほど細密的な作業はないので、むしろより気を遣っていかなければ美しい均一色の画面は完成しません。そもそも背景をベタ塗りにして手前に人物を描いた時などはとくに注意が必要で、重なりを完璧に表現するためには人物と背景の境目に隙間ができたり、背景の色が人物のラインにはみ出てしまったりすると、人物の形状を損ねるだけでなく、全体の印象が悪くなってしまうので細い筆でゆっくり丁寧に着色を施さなければなりません。

人間の細胞が粒子(原子)で構成されているように絵の画面も非常に緻密な点や線の重なりが基礎となって形作られるため、忍耐がなければならないという理屈は、何を描くときでも共通の理念として生き続けていますので、前衛的な造形美術でも微調整なしには、決して完成に至らないことを前提に考えつつ入念な下準備をすることが重要ですし、建築の設計図のようにスケッチの段階からきめ細かい点や線が存在していなければなりません。

ただ一言で忍耐と言ってもどうやって身に着けていけばいいのか分からないと思いますので、まずは一本の木を覆い尽くす葉を1枚1枚丁寧に描いてみましょう。それは時間がかかる作業ですし、途中で投げ出したくなる思いが生まれるかもしれません。しかしその木に生い茂る葉がいかに生命力に溢れているかを追い求める時にこそ、気力が手に宿りますし、どれだけ時間をかけてもかまいませんので、最後まで描き上げる努力をしましょう。

そして自由表現も的確なイメージングを再現するために細かく丁寧な線を引いていくことを意識していきましょう。なぐり書きのようにすることも必要なときはありますが、訓練の一環として一枚でもいいのでリズム感を持ちながらゆっくり、なめらかな風合いを出せるような画面作りをしてみましょう。

例えばアクリル絵の具を使って、画面を黒で塗りつぶして小さな白い点を配置して銀河を描く事ができます。銀河は星の集合体と言うだけではなく、赤や青のしみのような陰影が存在することから、初級から中級にステップアップするには適切な課題と言えます。また細筆で丹念に白い点を打っていかなければならないので、非常に根気の要る作業です。そして問題のしみをどのように表現するかですが、これは赤や青の絵の具に水を多めに混ぜて、十分薄めてから平筆で点を打つようにして、ゆっくり星の上に塗り重ねていきます。そしてしみができたら、再度その上からさらに小さな白い点を打っていけば奥行きのある宇宙空間が完成するというわけです。

では抽象画はどのように発展させていったらいいのでしょうか。初歩的な訓練としては、自由に描くことで感覚を養えるのですが、まずは一度完成した絵に何かを付け足したり削除してルックスを変えると言う作業を施してみてください。脳を柔軟な状態にして、どうすれば1枚の絵に化学反応を引き起こせるか実践してみましょう。